n年後に駐在するゲイ

いつか海外に飛ばされるゲイが生きた証

昔の旅を振り返る(西側資本主義先進国・フランス編)

旅をするのが好きだった。過去形で書いているのは、コロナのおかげでどこにも行けない状態が続いているから。もう1年半は生活圏から出ていない。ひきこもり体質のくせに一つの場所にとどまるのが大嫌いな僕が、これだけ長い期間動かずにいられることに驚く。慣れでしょうか。

 

カメラフォルダをさかのぼって、旅先で撮った写真を眺める機会が格段に増えた。旅行の回数はそう多くないけれど、どの写真にも大切な思い出が詰まっていることに気づく。懐かしくて、そして少し切ない気持ちになる。

 

 

 

某旧社会主義国に留学していた時分。最初に訪れた外国はフランスだった。ちょうど同じ時期にパリに留学していた高校の同期に会いに行くためだ。

 

シャルル・ド・ゴール空港からパリへ向かうバスに乗り、窓から見える景色に目を奪われた。私の留学先とは違い、何もかもが明るいのである。空も、建物も、本当に何もかも。あとすべてにお金がかかっている。別世界にワープしたようだった、というか本当にワープしていた。ああ、これが西側資本主義先進国か。なぜ留学先をパリにしなかったのかと割と本気で後悔したものである。ちなみに、西側資本主義国を旅行をしてあまりの違いに打ちひしがれるのは私の留学先あるあるの一つだ。

 

学生の貧乏旅行ではパリのホテルなんてとても泊まることはできないので、友達のホームステイ先にお邪魔させてもらった。日本語とフランス語の飛び交う暖かくて愛らしい家庭だった。朝食でフランスパンが出てきたときはあまりのテンプレ具合に軽く感動した。

 

凱旋門エッフェル塔オペラ座シャンゼリゼ通り。さすがは世界の観光都市、見ても見ても終わらない。とりわけルーブル美術館は感動の連続だった。あまり芸術に明るくない僕でも一度は目にしたことのある作品が出てくる出てくる。まるで世界史の教科書の中に迷い込んだよう。モナ・リザとかミロのヴィーナスって本当にあるんだ。なお、モナ・リザは展示されている場所から半径2メートル?以内に入ることができず、遠目で見ることになる。写真撮るときめちゃめちゃズームした。

 

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ズーム倍率最大で撮影した世界屈指の名画

 

数々の芸術作品もさることながら、僕の目を引いたのは名だたる作品群を持っている紙に模写する人たちだった。いかにも芸術系の大学生然とした人もいれば、余生を楽しんでいる風のご老人まで、年代も性別も、人種も様々。それぞれの熱量で、それぞれの真剣さで、作品と手元の紙に交互に視線を走らせる彼らがとてもまぶしかった。

 

そういえば、ジブリ作品の原画が飾ってあるカフェがあった。おそらくコピーだろうが、どうやって手に入れたんだろう。フランス語で埋め尽くされた街に突然現れた日本語にたまらなく懐かしさを覚えた。

 

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ポルコ・ロッソかっこいいよね

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耳すま』のあのシーン

 

日本語を母言語として生まれてよかったと思うことの一つに、ジブリ作品をオリジナル言語で楽しむことができるというのがある。翻訳作品はその性質からして、元の言語にあったニュアンスや語感が多分に失われる運命にある。宮○駿の気持ちがこもった数々の名セリフを、そのまま享受できるなんて贅沢ではないか。ちなみに僕が最も好きなセリフは、『もののけ姫』に登場するアシタカの「会いにいくよ。ヤックルに乗って」である。

 

なにもかもが美しくないと気が済まないのではと思うほどのパリ。iPhoneショップですらおしゃれで、さすがに笑ってしまった。

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リンゴ製品売るのにここまで洒落こむ必要ある?

モンマルトルの丘近く(だったような)のだだっ広い公園の芝生に座って、友達としゃべり倒したあの時間を僕は一生忘れない。高校時代の思い出話に花を咲かせたかと思えば、留学生活のつらかったエピソードに共感しあったり。将来への不安なんてみじんもなく、有り余る時間とエネルギーを正しく使っている感覚があった。生い茂る緑にどこまでも青い空を眺めながら、コーヒー片手にとりとめもない話をして笑いあったあの時間を「青春」と呼ばないでなんと呼ぶんだろう。

 

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大都会にいることを忘れるほどの自然

パリ滞在は本当にあっという間で、いよいよ留学先へ帰国する日がやってきた。本当に帰りたくなかったが、さすがにそれはまずいので友達に別れを告げてしぶしぶシャルル・ド・ゴール空港へ向かう。資本主義国の空気に触れあえるのはこれが最後と言わんばかりにできるだけ深呼吸しようとしたが、パリの地下鉄は世界の一大都市にあるまじき臭さなので慌てて中断する。

 

シャルル・ド・ゴール空港にはなぜかゲームコーナーがあり、パックマンのようなレトロゲームを楽しむことができる。意図は全く持って不明だが、粋な計らいである。搭乗時間のギリギリまでひとりパックマンに熱中する。

 

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これが結構面白いんです

 

搭乗時刻になり、後ろ髪をひかれる思いで飛行機に乗り込む。この時の帰りたくなさはもうすさまじかった。フランス語と英語、それにロシア語の機内アナウンスが流れる。4日ぶりのロシア語に、僕の母言語でないその言語に妙な安心感を覚えた。

 

留学先の空港に到着し、列車で市街地へ向かう。窓の外に見えるのは薄暗い空、降り積もる雪、それに社会主義建築の列。ああ、帰ってきたんだなと実感する。同時に、この殺風景な景色を自分はそこまで嫌いではないことに、むしろ親近感をもって眺めていることに気づく。自分の住む場所の良さを再確認するために旅をする、とどこかのだれかが言っていたことをふと思い出した。